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プロジェクト・ジェイダイト。2014年10月に発表されたこのプロジェクトをご存じだろうか。ブレイブ ロボティクス、アスラテック、タカラトミーの3社によって発足された、巨大変形ロボット建造プロジェクトである。

発足とともに、1.3メートルの変形ロボット「ジェイダイト クォーター」を発表。昨年の6月には、トランスフォーマーの人気キャラクターであるバンブルビーをモチーフにした1.3メートルの「バンブルビー クォーター」、玩具のプロトタイプモデルである小型の「バンブルビー ツーオー」と、すでに3体の変形ロボットを開発済である。いずれも、ビークルモード(車の形状)、ロボットモードに自動変形し、車としての走行、ロボットモードでの二足歩行を実現した。このプロジェクトの中心人物が、今回取材するブレイブ ロボティクス社の代表・石田賢司である。

1982年生まれの石田は、31歳で会社員を辞めて、「巨大変形ロボットを建造」することにしたという。クレイジーとしか言いようはないが、石田は本気だし、これは現実の話だ。現在彼は、“実際に乗れて運転できる変形ロボット”「ジェイダイト ライド」の開発を進めている。2017年中の完成を目指しているという「ジェイダイト ライド」の開発状況と、なぜ石田がここまで巨大変形ロボットにこだわるのかを聞いた。

2016年なのに、変形合体ロボットがいないのは社会問題だ

―天井の高い大きなガレージですね。高さはどれくらいありますか?

4メートルちょっとですね。

―ジェイダイト ライドはロボットモードで全高3.5メートルと発表されていますから、この空間なら収まるわけですね。開発状況はいかがですか?

順調です。2017年中にはお見せできるでしょう。人が乗ったままでビークルモード、ロボットモードに変形でき、そのまま運転できるものを目指しています。

―プロジェクト・ジェイダイトとはどのようなプロジェクトなのでしょうか?

いまは2016年ですよね。この時代に、変形合体ロボットが存在しないなんて、おかしいと思いませんか? 私はこの事態を、“深刻な社会問題”だととらえました。この問題を解決するための一助になればと始めたのが、プロジェクト・ジェイダイトです。全長・全高約5メートルの変形ロボット、「ジェイダイト オリジナル」の建造をゴールとし、そこに向けてさまざまな課題を乗り越えています。

―しかし、巨大なロボットがいる世界というのは、多くの人にとって、アニメやマンガの中のお話にすぎません。この社会問題(?)に取り組もうという強い気持ちは、どこから来たのでしょうか。大学生の頃、起業までして、3.5メートル、さらには5メートルの変形ロボットを作ろうとしている今の自分を、想像できていましたか?

漠然と「そうなったらいいな」とは思っていましたが、実際そうなったことには驚いています。正直言って、最初は自分で会社を作ろうなんて考えてもいなかったですし。いまでも、起業せずに既存の組織でやれるなら、それが良いと思っています。でも、巨大ロボットを建造させてくれる組織なんて、この世界にはないんです(笑)。だから、いま世界には巨大変形ロボットが存在していないわけで。

人生における“最低限”の目標は、「生きているうちに巨大変形ロボットを作る」こと

―「作らせてくれる組織がないから、諦めよう」という選択肢はなかったんですか?

少なく見積もっても、自分が死ぬ前に、「人が乗れて、操縦できて、変形するロボット」を作れるだろうなと、大学生の時になんとなく思えていたんです。でも、まだ若かったので、実際にどうすれば良いのかは分からなかった。それでも、「開発できるはずだ」という気持ちを持ったまま、ロボットにまつわる技術トレンドを常に追い続けていたんです。

―巨大変形ロボット開発の機会をうかがっていたわけですね。夢が現実に近づいたのは、2012年に小型変形ロボットを発表されたときでしょうか。YouTubeで変形の様子を公開されて、200万再生を突破し、ロボット業界を中心に話題を集めました。某テレビ番組でも取り上げられましたよね。独立を意識されたのも、この頃でしょうか?

繰り返しになりますが、その頃も本当は、起業せずにどこかの組織でロボットを開発できればベストだと思っていました。ただ、いまどんな新技術が出ているのか、それを実際に使うとしたらいくらかかるのか、そうしたことを調べ続けていたなかで、2014年には、「起業してロボット開発を行うことも可能だ」という結論に至ったわけです。例えば費用面。いまなら、自分が作りたいロボットの建造に何百億円とかかるわけじゃない。個人でも、“一生をかければどうにかなる金額”なわけです。

―一生をかければ……。

実家がお寺なので、自分にとって死は当たり前の存在。巨大変形ロボットを作ることが可能だと確信を持てたのなら、そこに自分の生を費やすのは当然です。

―普通に考えたら、「巨大ロボット建造に一生をかける」というのは、 “当然”でなく、“クレイジー”です。でも、クレイジーな人が未来を作り出すんだとも思います。そんな、自分の手で未来を作り出している石田さんから見て、近い未来の東京、2020年の東京はどうなっていると思いますか?

2020年には、3メートルなり5メートルのロボットが存在しているはずです、常識的に考えて。でも、まだ街中をそうしたロボットで走行するための法律ができていないでしょうね。その頃には、それが“深刻な社会問題”になっているんじゃないかな(笑)。

石田賢司(いしだ けんじ)

1982年新潟県生まれ。14歳で巨大変形合体ロボットの建造を志し、自らの手で製作に取り組む。2002年、変形ロボット(人型/車型)の1号機を作成。2012年に小型変形ロボット7.2 号機を発表し、変形の様子を収めたYouTube動画は再生回数200万回を突破。「Makers Faire Tokyo」にも出展し、各所から賞賛を浴び、世界から注目される存在に。2013年、株式会社ブレイブ ロボティクスを設立し、代表に。自身をロボット建造師と名乗る。

REPORTER

r.c.o.inc.代表。好きな食べ物はナン。好きな女性は飯島愛。好きな言語はJavascript。座右の銘は「もうしょうがない人ねぇ」。

PHOTOGRAPHER
KENJI FUJIMAKI