この記事の初出はウェブメディア「Z TOKYO(2019年1月にサイト運営終了)」です。同メディア運営会社からの権利譲渡及び取材元からの掲載許諾を受けて当サイトに転載しています。

東京を拠点とする電子音楽レーベル「moph reocrds」のmergrimとTanakaが仕掛ける交錯パーティ「Different Directions (:D」。恵比寿リキッドルーム内にある「Timeout Cafe and Diner」で毎月開かれているこのパーティも、2016年3月で1周年を迎えた。

ここでは、“東京人”たちのリアルなフェイバリットを聴ける。なぜなら、アートディレクター/デザイナー/プログラマーなど、普段DJをしない人たちにオーガナイザーの2人が声をかけ、いきなりミキサーの前に立たせてしまう“ムチャぶり枠”があるからだ。かくいう筆者も、取材と引き換えに2月のイベントでDJを披露する羽目になった(苦笑)。

出演者全員が“ムチャぶり枠”の人々なら気は楽だが、Z TOKYOにも登場したDJ SEKITOVAをはじめ、出演陣の多くはプロだ。mergrimもユニクロの「ウルトラライトダウン2015 Fall/Winter篇」でCM曲を手掛ける人物である。そこに混ざってDJをするのだから、ムチャぶりされた人たちはたまらない。しかしオーディエンスとしては、「この中で一体どんな曲をかけるのだろう?」と興味をそそられるものがある。3月の周年イベントでは、音楽制作マガジンの草分け、「サウンド&レコーディング・マガジン」編集長・篠崎 賢太郎と、ポップカルチャーニュースメディア・ナタリーの「音楽ナタリー」編集長・加藤 一陽によるB2Bが披露された。

音楽もカルチャーもテクノロジーも交錯する中で垣間見える“素の東京”

17時からの早い時間帯で出番を迎えた2人。ターンテーブルに置かれていたのはiPhoneだ。篠崎はDJ ミックス用アプリ「TRAKTOR DJ」を使っているものの、加藤は「ミュージック」アプリそのまま。ABLETON Live用のラップトップ持参だったが、機材トラブルに見舞われたという。

事前打ち合わせを全くしてこなかったという彼らは、マッシヴ・アタック/Phoenix/Onra/Dimlite/Azzxsss/grooveman Spot/カシミア・キャット/電気グルーヴなど、縦横無尽……というより無計画に(笑)、しかし互いをけん制しながら、さまざまな曲を繋げていく。加藤曰く「実際に今日かけた曲を聴きながら、音楽ナタリーの原稿をチェックすることもありますね」とのこと。まさに、東京人のリアルなフェイバリットミュージックがかけられた時間帯であった。

彼らがDJを終えた後、特設ライブ会場にmergrimが登場。バンドセットで会場を揺らす。ちなみに、この会場でVJの映像を映し出していたのは、ソニーのポータブル超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」である。現在、半年程度の入荷待ち状態になっている超人気機種が、この日は会場入り口のデモ機と合わせて計4台も使われていた。一方で、レコードのクリーニング屋「レコード クリーニング タカハシ」がデモを行うブースも設けられているなど、デジタルとアナログが交錯していたのも面白い。

ドーナツ盤のDJからラップトップDJに交代するシーンは象徴的だったが、東京のさまざまな音楽/カルチャー/テクノロジー、そして人々が交錯するこのパーティは、商業的/興業的という言葉からはほど遠い、気取らない東京の音楽シーンを感じられる心地よいイベントだ。興味のある方は、イベントのフェイスブックページをぜひフォローしてほしい。

mergrim

兵庫県出身の光森貴久によるソロプロジェクト。moph records主宰。「Different Directions (:D」オーガナイザー。これまでにアルバムを4枚リリースしており、downy/川本真琴など、リミックスワークも数多く手掛ける。SonarSound Tokyo始め、さまざまなイベントに出演を果たし、2011年にはアジア、2012年にはヨーロッパツアーを敢行。作曲家としても、ユニクロの「ウルトラライトダウン2015 Fall/Winter篇」を初めとしたTVCFほか、多数の広告作品に楽曲提供している。

Tanaka

「Different Directions (:D」オーガナイザー。ひっそりとした人生を送りたいにも関わらず、DD(:Dの立ち上げにうっかり関わり、表舞台に立つことを余儀なくされた30代。しかしながら、毎回のDD(:Dを結構楽しんでいるため、内心は喜んでいると思われる。DD(:D以外でも音楽活動を行っているが、それについてはひたすらに隠し続け、語ろうとしない。

REPORTER

r.c.o.inc.代表。好きな食べ物はナン。好きな女性は飯島愛。好きな言語はJavascript。座右の銘は「もうしょうがない人ねぇ」。

PHOTOGRAPHER
YOSHIFUMI SHIMIZU