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原宿の隣。東京都渋谷区の北部にあたり、新宿駅の手前にある代々木駅。東京都心に位置するこの駅から徒歩0分の一等地には、異様な姿をさらす廃墟同然の雑居ビルがある。建物の名は「代々木会館」。
1970年代の名作ドラマ「傷だらけの天使」で、主人公の木暮修(萩原健一)が屋上に住んでいた“エンジェルビル”。それが何を隠そう、この「代々木会館」である。しかし、それも今は昔。かつての面影は消え、いまでは異様な趣を帯びている。

老朽化により屋上の手すりは折れ、いまにも落ちてきそうな有様で、ビルの近くを歩くのが怖いほどだ。
2001年に解体予定だったが、権利問題が解決を見ず、取りやめに。いまなお、一等地にその姿をさらし続けている。
その退廃的な雰囲気から、かつて香港・九龍に存在した巨大スラム街、九龍城砦に例えられることもある代々木会館。すでに朽ち果てているように見えるが、意外にも建物自体は現役である。1階には居酒屋と立ち食い寿司屋があり、3階では中国関係図書の輸入販売店が営業を続けている。世間からは“廃墟扱い”されているが、一部の階層へなら普通に立ち入りできるのである。建物の外周や内部がどうなっているのか、さっそく調査してみた。

撤退した店舗の看板が残る

筆者が現地に到着したのは、夜6時ごろ。あたりはすっかり日が暮れており、代々木会館は不気味な存在感を放っていた。かつてはギラギラと輝いていただろうパチンコ屋のネオン看板も、いまや形無し。すっかり埃をかぶってくすんでいた。明かりが灯ることはニ度とないだろう。
建物の側面に移動すると、「梅なか」「志乃ぶ」「お浜」etc. 昭和の趣を色濃く残した、いろいろな店の看板を発見できた。おそらく、どの店舗もすでに撤退しているだろう。看板として役割を果たせぬまま、長らく放置されているようだ。さらに、壁面のところどころには、室外機や衛星アンテナも確認できる。九龍城砦になぞらえられるのも納得の様相である。この位置から代々木会館の背後に見える、豪奢なNTTドコモビルとの対比も物悲しかった。まさに諸行無常である。

建物正面&内部は?

ビルの正面側では、前述した居酒屋や立ち食い寿司屋が営業している。筆者が訪問したのが土曜日だったこともあり、両店舗ともに活気づいている様子だった。しかしそれが余計に、廃墟化した上階部分の“退廃感”を際立たせているようにも見える。
建物内部への入り口はただ一つ。「2階飲食店街」と書かれた看板の下にあるドアだけだ。そこから中に入ると、何やら古紙のような、カビのようなニオイがした。“年月の重み”を感じる香りだ。階段踊り場の壁には、かつて「2階飲食店街」で営業していた店舗の看板が貼られたまま。ノスタルジックなデザインを眺めていると、昭和にタイムスリップしたような錯覚に陥ってしまう。

2階に登ると、そこには防火扉がある。本来はここから「2階飲食店街」へ行けるはずだが、ドアノブが壊れており、残念ながら先に進めなかった。仕方なく上へ向かうと、階段や踊り場にダンボールと古本が乱雑に置かれていた。中国語で書かれたタイトルを見る限り、どの本も3階にある書店の在庫だろう。屋上のペントハウスを含めると7階まである代々木会館だが、4階から上はすでに封鎖されていた。これより上階は調査できないようだ。書店の店主にご迷惑をかけるわけにもいかないので、ここで引き返すことにした。

都内で昭和を感じられる貴重なスポット

かつては東京にも、中野45番街やホテル楽苑といった昭和の空気を感じられるスポットがいくつも存在したが、その数は年々減り続けている。老朽化が進んでいる代々木会館も、いずれは取り壊されてしまう日がくるだろう。そうなる前に代々木会館へ足を運び、昭和の面影を肌で感じてみてはいかがだろうか。

代々木会館
住所:東京都渋谷区代々木1-35-1