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5月に行われた「アートフェア東京」。会場には、若手、ベテラン、大御所、そして古典から現代美術まで、多種多様なアートが並んでいた。そんななか、「写真撮っていいですか?」と、多くの若者がスマホのファインダーに捉えていく作品と出会う。タイトルは「Tokyo Story」。

横浜出身、現在はベルリンに拠点を構える、ユカとケンタロウの姉弟ユニット、SHIMURAbrosが生み出した作品である。黄色と青のサークルがどこまでも続いていくその巨大な鏡は、色もフォルムもとにかくフォトジェニックで美しい。
しかし、鏡の真ん中には、黒く丸い棒のようなものがある。支柱……なのかと思ったが、そうでもない。スタッフに聞くと、これはなんと電線。なぜ、電線をここに配置したのかと不思議に思っていると、この作品は小津安二郎の映画「東京物語」に着想を得たものだという話になった。

作品名:TRACE – SKY – TOKYO STORY 01 (Edition size 2)
制作年:2015年
作品名:TRACE – SKY – TOKYO STORY 02 (Edition size 2)
制作年:2015年
作品名:TRACE – SKY – TOKYO STORY 03 (Edition size 2)
制作年:2015年

小津安二郎。「名前は聞いたことがあるけど……」というZ世代の読者は多いだろう。「小津調」と呼ばれる独特の映像で、国内にとどまらず世界的にも評価が高い昭和の名監督である。昨年のベルリン国際映画祭で、名誉金熊賞を受賞した巨匠・ヴィム・ヴェンダースは、1985年に小津安二郎へ捧げたドキュメンタリー「東京画」を製作しているほど、小津に傾倒している。
多くの映画人が敬愛してやまない、小津と小津映画。中でも名作との呼び声高い「東京物語」だが、この大きな鏡と「東京物語」に、いったい何の接点があるのだろうか。頭に?マークを浮かべながらスタッフの説明を聞いていくと……、そこには驚きのコンセプトがあった。

映画の“フィルム”とストリートビューの“パノラマ”

モチーフは「東京物語」に登場する“空”だ。映画のフィルムとして切り取られた東京の空を、Googleストリートビューという現代のカメラを通して、再び捉え直したという。
ストリートビューは、膨大なパノラマ画像をつなぎ合わせて作られたサービスだ。当然、丁寧に1つ1つのパノラマをつないでいくわけにはいかない。自動化されているがゆえに、ストリートビューの“世界”には、ノイズのように、イメージのつなぎ目が多々発生している。
SHIMURAbrosは、このつなぎ目、イメージの歪みを可視化しようと試みた。光学ガラスと鏡、そして映画「東京物語」に映る東京の空に伸びた“電線”の断片を用いたこの作品は、鑑賞者が視点を変えることで、鏡の先に歪みが現れる仕掛けだ。まっすぐにブツブツと切れた電線と、斜めにカットされた電線、それらを中央に配置した2種類の作品が用意されたのは、ストリートビューの電線に見られるつなぎ目=エラーを表しているという。

左 - 作品名:SUN 制作年:2015年
右 - 作品名:Mickey Lies on His Back 制作年:2009-2015年

アートフェア東京では、先ほど紹介した黄色と青のサークルが美しい「デジタル」の世界を表した作品のみ展示されていたが、もともとは白黒の世界を表した、対になる作品があったそうだ。ただ、その作品はすでにコレクターが購入済。アナログな東京の空と、デジタルな東京の空を、並べて鑑賞できる機会を得られなかったのは残念でならない。

左 - 作品名:X-Ray Train 制作年:2007-2009年
右 - 作品名:映画なしの映画―創造的地理 (Ed.5) 制作年:2010年

リュミエール兄弟の古典映像「列車の到着」をモチーフに、列車をCTスキャンしたような映像を展開する「X-Ray Train」や、レフ・クレショフの実験映画「創造的な地理」から5シーンを参照し、CTスキャンにかけたものを3次元データ化して3Dプリンターで造形したという「映画なしの映画―創造的地理」など、映画を始めとする映像テクノロジーの歴史をモチーフに、数々の作品を作ってきた2人。
その的確な目線、ユニークでユーモアを感じるコンセプトの生み出し方には感嘆してしまう。筆者には、とても「東京物語」の“空”から、この作品に辿りける発想力はない。ただ、こうしてとてつもない発想から生まれた作品を見聞きすると、頭の中で何か“スコーン”とつかえがとれるような、そんな感覚を覚える。
その“スコーン”は、良いアートを鑑賞したときに得られる快感の“音”。彼らの作品で、再び“スコーン”を体験できる日が待ち遠しい。

SHIMURAbros

1976年横浜生まれのユカと、1979年横浜生まれのケンタロウによる姉弟ユニット。カンヌ及びベルリン国際映画祭での上映をはじめ、国立新美術館、シンガポール国立大学美術館、台北現代美術館、パース現代美術館(オーストラリア)、ミュージアムクォーター ウイーンなど、世界各国で作品を展示。現在は拠点をベルリンに移し、活動している。

REPORTER

RYUTA TOMIYAMA
r.c.o.inc.代表。好きな食べ物はナン。好きな女性は飯島愛。好きな言語はJavascript。座右の銘は「もうしょうがない人ねぇ」。