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乗用人型変形ロボット「ジェイダイト・ライド」。ロボットモード時の全高約3.7m、ビークルモード時の全長約4m。実際に人が乗って操縦でき、そのまま変形も可能な“現実に存在する”ロボットである。

4月末に公開されるや否や、テレビをはじめとしたメディアで大きく取り上げられたので、その名をご存知の方も少なくないだろう。日本のみならず海外からも注目を集め、世界各国でニュースになった。

記者会見の様子

ある人は「ガンダムが現実になった」と言い、ある人は「トランスフォーマーのオートボットが現れた」と言い、分かっている人は「超AIさえ乗れば勇者ロボ完成だろこれ」と言う。いずれにせよ、「アニメや映画の世界が現実に現れた……」という文脈で多数の記事が作られ、「ジェイダイト・ライド」は世の中に紹介されていった。

一連の動き、その契機は、2014年に発足されたプロジェクト・ジェイダイトだ。BRAVE ROBOTICS社、アスラテック社が中心となり、タカラトミー社からの公認も得た、巨大変形ロボット建造プロジェクトである。

Z TOKYOでは、2015年11月にBRAVE ROBOTICSの代表・石田賢司氏(以下、敬称略)にインタビューを敢行。その時すでに、「ジェイダイト・ライド」の開発状況についても語られていた。

前述の記事画面のキャプチャ

「2017年中にはお見せできるでしょう。人が乗ったままでビークルモード、ロボットモードに変形でき、そのまま運転できるものを目指しています」と記事中にある通りで、若干スケジュールは押したものの、予定通りに予定通りの内容で、彼らは「ジェイダイト・ライド」をお披露目したことになる。

再度このプロジェクトを取り上げるにあたって、筆者が掘り下げてみたかったのは、まさにこの点だ。予定通りにとんでもないものが作り上げられてしまった、その舞台裏である。

世の中には、中途半端な状態でプロジェクトが宙に浮く、MAKERSでIoTな案件が多い。クラウドファンディングで華々しく幕を開けたは良いものの……とか、大規模出資のリリースが出て早数年……とか。「あれどうなった?」みたいな話は、枚挙にいとまがない。

プロジェクト・ジェイダイトと、頓挫してしまった数々のプロジェクトは、一体何がどう違うのだろうか。関係者へのインタビューから、紐解いてみたい。

石田と吉崎

報道ではよく、“ソフトバンクグループの”という枕詞付きで紹介されるアスラテック。だが、ギークな人には「V-Sidoの吉崎 航氏(以下、敬称略)率いる」と書いた方が、通じやすいだろう。ロボット制御システム「V-Sido」を核とし、様々なロボット開発・事業を手掛ける企業だ。

こと“巨大ロボット”でいえば、その先駆けとなった水道橋重工の「クラタス」もまた、「V-Sido」によって制御されている。「クラタス」は全高約4メートル、重量約5トンの油圧式ロボット。昨年行われた“日米巨大ロボット対決”にも参戦した。

同じシステムで動いているのなら、「クラタス」に乗れると「ジェイダイト・ライド」にも乗れるのだろうか? 「V-Sido」の操作を覚えて、パイロットを目指したいという人も出てきそうだ。

アスラテックは、「ロボットを作らないロボット企業」と自身を位置付けている。ハードウェアの得意な会社が、ソフトウェア面で苦戦する……というケースは多いが、同社はロボット業界においてソフトウェアの問題を一手に引き受けるような存在として、その地位を確かなものにしてきた。

……と、ここまでは表向きの話だ。

そもそもアスラテックはなぜ、プロジェクト・ジェイダイト発足当初から中心的な役割を担っているのだろうか。ソフトバンク本体から指示を受けた? いや、その経緯はもっとパーソナルな話からスタートする。2014年のことだ。

“巨大変形ロボット建造プロジェクト”という構想を以前から練っていたBRAVE ROBOTICSの石田だったが、技術・資金・組織体制など、様々な面で問題を抱えてもいた。そんな時、ロボット業界で話題になっていた「V-Sido」の存在を知り、開発者である吉崎へコンタクトをとる。

待ち合わせは秋葉原の駅前。吉崎もまた、ハードウェア専門の開発者を探していたとあって、2人はすぐに意気投合した。技術面やプロジェクトについて様々な意見交換を行いつつ、彼らは行動を開始する。

具体的に言えば、石田はそれまで個人事業の屋号としていたBRAVE ROBOTICSを法人化。吉崎もまた、2013年に設立されたアスラテック社での事業活動を本格化すると、記者発表会を行った。どちらも2014年6月の出来事だ。そこから3カ月後の9月10日に、プロジェクト・ジェイダイトは発足する。

左:株式会社 BRAVE ROBOTICS 代表取締役 石田 賢司氏
右:アスラテック株式会社 取締役 チーフロボットクリエイター 吉崎 航氏

テレビで見ていて「これや!」と思った

発足後すぐの2014年10月には、1.3メートルの変形ロボット「ジェイダイト・クォーター」を、ウェブサイトとYouTube動画で公開。すると、世界各国で驚きをもって迎えられ、YouTubeの再生回数は60万超を記録。イベントへの出演依頼も殺到した。

翌年の正月には、フジテレビ系列で放映された「2015年先取り博覧会あらし予報」という番組にも取り上げられる。2015年に開発・発売される様々な商品や施設を、ジャニーズの嵐・各メンバーがジャンル毎に紹介していくという内容で、当然「ジェイダイト・クォーター」は、“ロボット”ジャンルで登場した。

同じく、“アミューズメント”ジャンルで同番組に取り上げられたのが、三精テクノロジーズ社だ。同社は、ジェットコースターなどの遊戯機械事業において、世界トップレベルのシェアを誇る。

ブレイブロボティクスの石田と、三精テクノロジーズ 遊戯機械事業本部 営業部 部長、多田裕一氏(以下、敬称略)に、この時のことを振り返ってもらった。

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石田 あの時は予定が合わずに、「ジェイダイト・クォーター」をスタジオへ持っていけなかったのです。ロボットがないのに、自分だけ行っても仕方ないから、スタジオ出演は断ろうと思っていたのですが、番組の方から「2013年に作った小型のロボットでいいから、持って来てほしい」とお話をいただいて。それなら……という感じで出演することにしました。

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多田 私もスタジオ出演したのですが、その楽屋で石田さんと名刺交換したのが、最初の出会いですね。「君何作ってんの、ロボットかいな」という(笑)。

三精テクノロジーズ株式会社 遊戯機械事業本部 営業部 部長 多田 裕一氏

その場で名刺交換をした2人だが、スタジオ収録をずっと観覧していたわけではないため、プロジェクト・ジェイダイトの詳しい内容を多田が知ったのは、放送されたタイミングだったという。

この時、同じく放送を見ていた三精テクノロジーズ 取締役専務執行役員、江部一昭氏(以下、敬称略)は、「これや!」と一人うなずいていた。

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江部 放送の2カ月くらい前かな。実は、とある客先から、パレード用のロボットを開発できないかと相談されていたのです。7メートルという大きさで、車型から人型へ変形するものが欲しいと。イメージCGまで見せていただいたのですが、その時は「ウチだと難しいですね」とお答えして、話は立ち消えになっていました。でも、正月にテレビを見ていたら、CGそのままのものが映っている(笑)。もう「これや!」と。

三精テクノロジーズ株式会社 取締役専務執行役員 江部 一昭氏

2015年春。三精テクノロジーズからそのような評価を受けていたとは知る術もない石田と吉崎は、次の一手、2.5メートルのロボット開発に向けて動き出していた。プロジェクト・ジェイダイト発足当初に公表していたスケジュールでは、「2017年末に2.5メートルで一人乗りの『ジェイダイト・ハーフ』を完成させる」としていたからだ。

しかし、2015年6月に出されたリリースは、「巨大変形ロボット『J-deite RIDE』の開発に着手」というタイトルの下、乗員は2名に変更されており、ロボットモードで全高3.5メートル、ビークルモードで全長3.8メートルと、サイズも変わっていた。つまり、開発目標が上方修正されたことになる。その理由はどこにあったのだろうか。

2015年6月のプレスリリースより。完成予想図

石田 ちょうど東京おもちゃショーの直前でしたね。タカラトミーさんとの仕事で、「バンブルビー クォーター」という、「ジェイダイト・クォーター」をベースにしたロボットをお披露目するタイミング。注目を集める時期でもあったので、そこに合わせて「ジェイダイト・ライド」のリリースも出そうという話になった。

具体的に動き出したのはもう少し前、4月くらいかな。「こういう構想があるので、一緒にやりませんか」「何か協業できませんか」といったアプローチを、いくつかの会社に打診してはいました。

ただ、その中で「実際に乗用車サイズのものを作らないと話題にならないな」という実感を持ったのです。結局、リリースを出すまでの2カ月程度で方針転換して、人が2名乗ったまま変形できるロボットを作ろうということになった。正直、実現にはかなり無理をしないと難しいなとも思いましたが……。

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吉崎 もともとの「ジェイダイト・ハーフ」は一人乗りの想定。ミニカー規格というのがあって、その規格に則ったものを石田さんと考えていたわけですけど、いったんそれをやめて、とにかく2人乗りの乗用車を目指そうと方針を変えた。だから、2人乗りの最小サイズで見積もったのが、あの時のリリースで書かれていたスペックだと思います。

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経緯を聞く限りでは、準備期間があまりない中で用意されたように見える当時の予定スペック。しかし、実際に完成した「ジェイダイト・ライド」との差は、石田曰く「ざっくり言うとかなり近い」ものだ。そこに、このチームの凄さ、真似難い技術力を垣間見る。

2015年6月のリリースは、有言実行を積み重ねていた2人だからこその、強気な開発宣言だったように思う。だが、一般的な乗用車サイズの「ジェイダイト・ライド」と、小学4年生くらいの身長にとどまる「ジェイダイト・クォーター」では、当然、開発規模が異なる。

「ジェイダイト・クォーター」は、市販のサーボモーターなどを組み合わせて作られたものだ。開発費は非公表だが、恐らく「高級車一台分」といった金額感で、失敗しても個人で何とかなる額だろう。

一方の「ジェイダイト・ライド」は、市販の部品を組み上げて作れるようなものではない。石田も「本当は、自分で一から部品を作ろうと思っていなかった。でも、市販品なんてありませんからね」と語ってくれたが、作業時間はもちろん、開発費を考えると気が遠くなりそうな代物である。

会社を立ち上げたばかりのBRAVE ROBOTICSがすべてを持ち出しできる額ではないし、いくら“ソフトバンクグループの”と冠が付くアスラテックでも、簡単に予算組みできるものではない。

ここでプロジェクト・ジェイダイトは、“開発費の調達”という問題に向き合うこととなる。

怪しい留守電

「そういうタイミングで会社に入ったのが私ですね」と笑うのが、BRAVE ROBOTICSの取締役CFO、浅見 潤氏(以下、敬称略)。それまで、契約書の確認から請求書の発行まで、“1人社長”としてすべてを担ってきた石田を支える存在として、2015年10月にBRAVE ROBOTICSへと加わった。

ほどなくして動き出したのが三精テクノロジーズだ。「最初は単純に、大きくて変形するパレード用のロボットを作ってくれませんかと、発注するつもりだった(江部)」という同社は、正月番組で交換していた石田の名刺、その電話番号に連絡を入れる。しかし……。

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石田 何回か留守電をいただいていたんです、三精テクノロジーズさんから。ただ、楽屋で名刺交換をしていたことをすっかり忘れていたので、「知らない番号の知らない会社から、何度も留守電が入っている。これは怪しいな」と思って、浅見さんに相談したのを覚えています(笑)。

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筆者が不思議に思ったのは、ジェイダイト・ライド有限責任事業組合(以下、LLP)の存在だ。単に、BRAVE ROBOTICS社、アスラテック社、三精テクノロジーズ社による、3社の共同事業とすれば良いところを、なぜわざわざ1つの箱、LLPを作ったのだろうか。平たく言うと、アニメなどでよく見る“製作委員会方式”なわけだが、プロダクト開発としては、あまり馴染みがない。

どこからこの枠組みが出てきたのかと思い、3社にそれぞれ聞いてみると、その出所がアスラテックにあったと分かる。同社の事業開発部 部長 羽田卓生氏(以下、敬称略)曰く、「LLPは2015年6月のリリース時点で考えていた」そうだ。

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羽田 三精テクノロジーズさんとの話が始まった時は、遊戯機械の会社さんということで、ロボット自体の新しい可能性が広がって素晴らしいなと、率直に思いましたね。

BRAVE ROBOTICSの浅見もまた、LLPという座組みに慣れていた一人だった。

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浅見 私は以前、マンガやライトノベルを取り扱う会社にいたことがあるのです。投資会社にいたこともあって、その時はファンドを作るのが仕事だった。だから、自分にとってはこの形がある意味で自然でしたし、プロダクトでもありコンテンツでもある「ジェイダイト・ライド」には、合っているように思いました。

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しかし、だ。出資比率は公表されていないものの、最も持ち出しが多いのは三精テクノロジーズであろう。当初の目的、つまり「某客先から打診された大きな変形ロボットを作る」ことを達成するだけなら、単に外注先として関わった方がシンプルである。そこに抵抗はなかったのだろうか。

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江部 当初、我々としてはLLPという形を想定していませんでした。単純に、開発製造の発注をするつもりだった。ただ、お会いしてお話を聞いていく中で、「ジェイダイト・ライド」の開発において、資金面含めていろいろお困りだということが分かっていきました。

多田 LLPの話は、確かアスラテックさんから持ち掛けていただいたはずです。最初は、「LLPやらLLCやら、何を言っているんだろう」と思っていましたけどね(笑)。ただ、とにかく我々は、石田さんと吉崎さんという2人の会社と、面白い関係性を築いていくことに価値を感じたわけです。

江部 このLLP自体は、1つのロボットを作るという目的を持った取り組みですが、その先にいろいろな可能性があるとも思っています。ここで培った技術は、当社の事業範囲である遊戯機械や舞台機構作りに応用していけますし、当社はライドの自動運転などにも取り組んでいますから、親和性のある分野が多いのです。

多田 もちろん、社内ではいろいろな意見もありましたよ。「そんなん作ってどうすんの」というような。

江部 一方で、IAAPA(米・フロリダで開催される世界最大級のアトラクション関連トレードショー)で、他メーカーには絶対に出来ないものを出して、度肝を抜いてやろうという思いもありましたね。

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三精テクノロジーズの本社は大阪。江部、多田両氏へのインタビューは、大阪本社の会社ということが感じられる大阪弁での関西ノリの物になったが、お2人のキャラクター性から推し量れるものも多かった。例えば、LLP設立前、まだ契約が詰まっていないであろう2016年5月の話だ。

この時プロジェクト・ジェイダイトは、米・カリフォルニアで行われた「Maker Faire Bay Area 2016」に出展している。1.3メートルの「ジェイダイト・クォーター」を2機持ち込んだのだが、このサイズでも海外に輸送するとなれば大ごとである。どのように輸送したのかと思っていたが、裏側で三精テクノロジーズが、そのサポートをしていたという。

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多田 まだLLPを組むと決まっていませんでしたが、ご相談いただいているうちに、なんだかんだで手伝ってしまいました(笑)。お金もかかったんですけどね。

江部 当時の社長で、現在は会長職にある中川(中川 実氏)にも、当然進捗を説明していましたが、そこはもう「やれやれ」という感じで(笑)。当社も新しいことをしていかなければいけないのだから、「どんどんやれ」と。

BRAVE ROBOTICS社の浅見もまた、「中川さんの決断があったから、ジェイダイト・ライドを開発できた」と話してくれたが、会社のトップからしてこの取り組みを“面白がった”のだと思う。

「プロジェクトに携わる者が皆、わくわくするような乗り物を作ろう」という姿勢は、遊戯機械作りに通ずるものなのではないだろうか。そう考えると、「ジェイダイト・ライドの建造」というプロジェクト、その意味や価値を理解できる企業として、遊戯機械事業で世界トップクラスのシェアを誇る三精テクノロジーズ社は、これ以上ない存在に映る。

こうして、絶妙としか言いようのない座組みが出来上がっていった。こうなると、後は“開発するだけ”だ。環境が整ったことは喜ばしいが、石田と吉崎の2人が「仮に」と決めていた2017年末という完成予定日までは、残り1年半。世界にいまだ存在しないものを作り上げる期間としては、短すぎるように感じる。どうやって、重量約1.7トンというあの巨大変形ロボットを、残された時間で作り上げていったのか……。

(後編へ続く)
ロボット開発に終わりはあるのか。クレイジーな乗用人型変形ロボット「J-deite RIDE」開発ストーリー(後編)

REPORTER

r.c.o.inc.代表。好きな食べ物はナン。好きな女性は飯島愛。好きな言語はJavascript。座右の銘は「もうしょうがない人ねぇ」。

PHOTOGRAPHER
MASATSUGU KANEKO & UGUSU DAISUKE