タグ: マンホール
RANKING
日本工芸・技術の粋が詰まった「自在物置」の魅力
この記事の初出はウェブメディア「Z TOKYO(2019年1月にサイト運営終了)」です。同メディア運営会社からの権利譲渡及び取材元からの掲載許諾を受けて当サイトに転載しています。「自在置物」と書いて「じざいおきもの」と読む。日本工芸の一分野だ。主に金属板を素材とし、龍、伊勢海老、蟷螂(カマキリ)、鯉などといった、架空&実在の動物や昆虫をモチーフとした作品が多い。特長は、その名が示す通り関節や体の動きが本物そっくりに動くこと。形だけでなく、動きまでも忠実に再現してしまう、日本工芸の粋が詰まったアートである。日本の世が平和になった江戸時代・中期にルーツを持つ「自在置物」だが、誕生の経緯がまた興味深い。なんでも、戦国時代に活躍した甲冑士(かっちゅうし)たちの仕事が減っていく中で、彼らの技術を用いた新たな仕事として考案され、発展を遂げたのだとか。幕末から明治にかけては、海外に多数の作品が輸出され、非常に高い評価を得ていった一方で、国内に残る作品は数少なく、日本においては歴史にその姿が埋もれていく。近年までは、ある種“ロストテクノロジー”のような存在になっていた分野だ。
その「自在置物」の世界でいま、2人の若手作家が注目を集めている。満田晴穂(みつたはるお)と大竹亮峯(おおたけ・りょうほう)。作品の精巧さに、誰もが目を見張るだろう。1980年生まれの満田晴穂は、昆虫を主なモチーフとする金工作家。東京藝術大学・在学中に行った古美術研究旅行で、代々自在置物を制作する冨木一門の当代・宗行氏と出会うやいなや、弟子入りを決めたという。現代において失われつつあったその技を受け継いだ彼は、“超絶技巧”という枕詞が良く使われる「自在置物」の世界においても、その“超絶”ぶりが際立つ存在だ。筆者が個人的に目を奪われたのは、ウズラの骨格を作品化した、その名も「自在鶉骨格」。精密・緻密な描写、そこから生まれる躍動感が素晴らしい。関節の可動範囲も再現されており、さまざまなポーズを表現可能だ。この作品を見ていると、「自在置物」をコレクションしたくなる人たちの気持ちがわかる(笑)。一方、1989年生まれの大竹亮峯は木彫家だ。そう、彼は“木”で「自在置物」を作っている。出自からして明らかなように、「自在置物」は通常、鉄や銅、銀などといった金属を用いて制作される工芸品だ。木製のものは極めて珍しく、これまでは大正から昭和初期に大阪で活動していた作家・穐山竹林斎(あきやま ちくりんさい)によって作られた作品が3点確認されていただけであった。大竹はその歴史を変えたのである。
2014年の5月にYouTube & Vimeoへ投稿された彼の作品「伊勢海老」の動画は、日本のみならず海外でも話題を呼んだ。コメント欄には「Amazing!」「Awesome work!」といった賛辞が並んでいる。今年完成した「自在カラッパ」、蟹の作品も見事だ。公式Facebookでは、その制作過程を一部公開しているので、ぜひのぞいてみてほしい。重量感、存在感。今にも動き出しそうな……というか、なぜ動かないのかと思ってしまうような、“置物”というより“生き物”としての力強さを感じる。「自在置物」に興味をいだいたなら、ぜひとも実物をその目で見てほしい。満田の作品は、2016年10月15日~12月25日まで、愛知県の豊田市美術館で行われている「蜘蛛の糸」展に展示中だ。また、両名共に公式サイトやFacebookページがあるので、その他の詳しい展示会情報などは、そちらをチェックしてほしい。1980年鳥取県生まれ。2002年、東京藝術大学美術学部工芸科入学。授業の一環として実施された古美術研究旅行で自在置物職人・冨木宗行氏に出会い、自在置物作家を志す。2008年に同大美術研究科修士課程彫金研究室修了後も精力的に制作を重ね、各地のアートフェアや美術館の企画展に出品。実在の昆虫、甲殻類、爬虫類を原寸で、可動部、細部の再現を徹底的に追求し再現した作品を、主に現代美術の世界で発表している。
満田晴穂と自在置物標本箱
Twitter
Facebook
1989年東京都生まれ。東京大学教育学部付属中等教育学校にて、「江戸指物」を高等部の卒業論文に選ぶ。京都伝統工芸大学校木彫刻専攻卒業。木彫根付から欄間まで手がける一位一刀彫の東勝廣氏を幾度も訪ね、門弟の許しを得て師事すると、1年数カ月の修行で、根付公募展「現代木彫根付芸術祭」(2010年)で大賞を受賞。後に独立し、大竹木彫刻の名で活動。国内外のコレクターから注目を集めている。
Facebook
PHOTOGRAPHER
SHINYA SHODA