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東京を拠点とする電子音楽レーベル「moph reocrds」のmergrimとTanakaが仕掛ける交錯パーティ「Different Directions (:D」。恵比寿リキッドルーム内にある「Timeout Cafe and Diner」で毎月開かれているこのパーティも、2016年3月で1周年を迎えた。
ここでは、“東京人”たちのリアルなフェイバリットを聴ける。なぜなら、アートディレクター/デザイナー/プログラマーなど、普段DJをしない人たちにオーガナイザーの2人が声をかけ、いきなりミキサーの前に立たせてしまう“ムチャぶり枠”があるからだ。かくいう筆者も、取材と引き換えに2月のイベントでDJを披露する羽目になった(苦笑)。
出演者全員が“ムチャぶり枠”の人々なら気は楽だが、Z TOKYOにも登場したDJ SEKITOVAをはじめ、出演陣の多くはプロだ。mergrimもユニクロの「ウルトラライトダウン2015 Fall/Winter篇」でCM曲を手掛ける人物である。そこに混ざってDJをするのだから、ムチャぶりされた人たちはたまらない。しかしオーディエンスとしては、「この中で一体どんな曲をかけるのだろう?」と興味をそそられるものがある。3月の周年イベントでは、音楽制作マガジンの草分け、「サウンド&レコーディング・マガジン」編集長・篠崎 賢太郎と、ポップカルチャーニュースメディア・ナタリーの「音楽ナタリー」編集長・加藤 一陽によるB2Bが披露された。
音楽もカルチャーもテクノロジーも交錯する中で垣間見える“素の東京”
17時からの早い時間帯で出番を迎えた2人。ターンテーブルに置かれていたのはiPhoneだ。篠崎はDJ ミックス用アプリ「TRAKTOR DJ」を使っているものの、加藤は「ミュージック」アプリそのまま。ABLETON Live用のラップトップ持参だったが、機材トラブルに見舞われたという。
事前打ち合わせを全くしてこなかったという彼らは、マッシヴ・アタック/Phoenix/Onra/Dimlite/Azzxsss/grooveman Spot/カシミア・キャット/電気グルーヴなど、縦横無尽……というより無計画に(笑)、しかし互いをけん制しながら、さまざまな曲を繋げていく。加藤曰く「実際に今日かけた曲を聴きながら、音楽ナタリーの原稿をチェックすることもありますね」とのこと。まさに、東京人のリアルなフェイバリットミュージックがかけられた時間帯であった。
彼らがDJを終えた後、特設ライブ会場にmergrimが登場。バンドセットで会場を揺らす。ちなみに、この会場でVJの映像を映し出していたのは、ソニーのポータブル超短焦点プロジェクター「LSPX-P1」である。現在、半年程度の入荷待ち状態になっている超人気機種が、この日は会場入り口のデモ機と合わせて計4台も使われていた。一方で、レコードのクリーニング屋「レコード クリーニング タカハシ」がデモを行うブースも設けられているなど、デジタルとアナログが交錯していたのも面白い。
ドーナツ盤のDJからラップトップDJに交代するシーンは象徴的だったが、東京のさまざまな音楽/カルチャー/テクノロジー、そして人々が交錯するこのパーティは、商業的/興業的という言葉からはほど遠い、気取らない東京の音楽シーンを感じられる心地よいイベントだ。興味のある方は、イベントのフェイスブックページをぜひフォローしてほしい。
mergrim
兵庫県出身の光森貴久によるソロプロジェクト。moph records主宰。「Different Directions (:D」オーガナイザー。これまでにアルバムを4枚リリースしており、downy/川本真琴など、リミックスワークも数多く手掛ける。SonarSound Tokyo始め、さまざまなイベントに出演を果たし、2011年にはアジア、2012年にはヨーロッパツアーを敢行。作曲家としても、ユニクロの「ウルトラライトダウン2015 Fall/Winter篇」を初めとしたTVCFほか、多数の広告作品に楽曲提供している。
Tanaka
「Different Directions (:D」オーガナイザー。ひっそりとした人生を送りたいにも関わらず、DD(:Dの立ち上げにうっかり関わり、表舞台に立つことを余儀なくされた30代。しかしながら、毎回のDD(:Dを結構楽しんでいるため、内心は喜んでいると思われる。DD(:D以外でも音楽活動を行っているが、それについてはひたすらに隠し続け、語ろうとしない。
PHOTOGRAPHER
YOSHIFUMI SHIMIZU