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今、「音楽を聴きたい」と思ったら、読者の皆さんは何を手にするだろうか?
恐らく多くの人はスマートフォンと答えるだろうし、「それ以外に何があるの?」と思う人もいるかもしれない。
私自身、「CDを手に取ってパソコンのトレイに入れる」なんて、いったい何万年前の話だろうと感じる。
だって今や、Apple MusicにGoogle Play Music、Spotifyといった、月額課金制の聴き放題サービスが乱立している時代だ。YouTubeで検索すれば、好きなアーティストの曲を無料で再生できるし、Sound Cloudでまだ見ぬ才能を漁ることも可能である。
“音楽を聴く”という行為は、驚くほど手軽な楽しみになった。実際、とにかくコストがかからない。定額制サービスでも月額1,000円程度支払えば、目がくらむほど膨大な音源が聴き放題になるのだから。音楽だけでなく映画や書籍もそうだが、ネットで定額配信されるエンターテインメントは、どんどんチープになっていくのが2010年代の傾向である。「誰でも文化をすぐ手に取れる、楽しめることの何が悪い?」 とは思うが、心のどこかに何かが引っかかりもする。簡便さを得た代わりに、“大切なもの”を失ってしまったような・・・。
その正体を教えてくれる店が、2017年3月30日にリニューアルオープンした「コピス吉祥寺」内にあった。5万枚強の在庫をストックする、「HMV record shop コピス吉祥寺」である。その名の通り、レコードをメインに取り扱う店だ。
2014年に渋谷の宇田川町、2016年に新宿ALTAへ出店し、音好きの支持を集めてきた「HMV record shop」だが、今回は都心から少々離れたファミリー層も多い商業施設内への出店だ。挑戦的にも感じられるが、一方で合点もいく。
アートやカフェ、マンガなど、さまざまな文化が醸成され続ける吉祥寺は、音楽の街でもある。その街を象徴する商業施設に“音楽の店”が入っていないのは、どうにもしっくりこない。そしてデジタル音源が安価で聴き放題の2017年に、CDショップが開店するというのもまた腑に落ちない。
はっきり言ってCDは、扱いに困る存在になってしまった。「ポータブルCDオーディオ」や「CDコンポ」といった再生専用機を持っている人は、一体どれほどいるのだろうか・・・。パソコンにリッピングしようにも、ここ数年のラップトップはCD / DVD / BDドライブを搭載していない。わざわざ外付けのドライブを接続して、元々デジタルであるCD音源をパソコンに取り込んで圧縮音源にする・・・? 「俺は一体何をやっているんだ」と言いたくなる禅問答的行為を繰り返すぐらいなら、ハナからデジタル配信で良いと思うのは至極当然だろう。
月額制の音楽聞き放題サービスに違和感を覚え、CDにも価値を感じられない。それどころか再生環境すらまともに整えられないとくれば、アナログ回帰が進むのも納得である。呼応するように、多くのアーティストが新譜をレコードで発売するようにもなった。
アメリカやイギリスはもちろん、ここ日本においてもレコードの売り上げは右肩上がりだ。「一般社団法人 日本レコード協会」が発表したレポート「日本のレコード産業」によると、アナログディスクは数量が前年比121%、金額では同124%となり、3年連続で数量・金額ともに伸長しているという。「レコードなんて触ったことがない・・・」という皆さん。もし、あなたが音楽を愛しているなら、今こそレコードの世界に足を踏み出してみてはいかがだろうか?
というわけで今回は、「HMV record shop コピス吉祥寺」を訪問。レコード購入のHow to、そして最新事情にも詳しい、HMV record shop コピス吉祥寺 / 新宿ALTA 統括店長の竹野さんに話を聞いてみた。
レコード人気再燃の秘密、その魅力に迫る
Q.レコード人気再燃のきっかけはなんでしょうか?
レコードが日本で流行る前段階として、アメリカやイギリスなどでブームが起こりました。きっかけのひとつには、レコードショップに行き、アナログレコード、カセットやCD、グッズを手にし、アーティストとショップ、そしてリスナーのみんなで音楽の楽しさを共有する、年に1度の祭典「レコード・ストア・デイ」が挙げられるでしょう。これは、毎年4月に世界中で開催される、レコード文化を祝う祭典です。海外で流行した文化は、当然こちらにも入ってきます。その結果、日本でレコードが流行し始めたと言えるでしょう。無料でも音楽を聴ける時代だからこそ、 “モノとしての魅力“が再評価されたのかもしれません。大きなジャケットから盤を取り出してプレイヤーに置き、針を落とすひと手間に、“楽しさ”や“贅沢感”を見出す方も多いようです。
Q.新譜をレコードでリリースするアーティストも増えているみたいですね。
そうですね。タイトル数が増えた影響で、新品レコードの売り上げも伸びています。若年層に人気のアーティストが、レコードをリリースするようになったのは大きな変化ですね。例えば、AKB48の『恋するフォーチュンクッキー』や、EXILE ATSUSHIの『Solo』など、アイドルグループや最新J-POPアーティストのアナログ盤も増えています。
Q.デジタル音源とレコードを比較して、聴き方が変わる部分はありますか?
スマートフォンやパソコンで音楽を再生するときは、移動中や勉強中、仕事中など、何かをしながら音楽を聴くことが多いのではないでしょうか。曲も手軽にスキップできますしね。一方、レコードの場合は手軽に曲をスキップできないし、一連の流れでアルバムを聴くことが多いですよね。再生したまま放っておくと、片面が終わっても盤が回りっぱなしで針や盤が傷むので、気にかけてやる必要もあるんです。レコードを大切に扱うことは、音楽とまっすぐ向き合うことにつながるのかもしれません。
Q.盤の大きさ(12インチ / 7インチ)により、違いはありますか?
CDにシングルとアルバムがあるように、レコードにもシングルとアルバムがあります。大きく分けると「7インチ盤=EP盤」がシングル、「12インチ盤=LP盤」がアルバムです。話すと長くなるので省略しますが、レコードには回転数(33回転、45回転)があり、一般的に45回転の7インチ盤は音が良いとされています。
Q.改めて、レコードの魅力を教えてください。
やっぱり音質が魅力的ですね。音の感触がやわらかく立体的で、聴き疲れしにくいと感じます。同じタイトルのレコードでも、発売時期によって音が全く違うところも面白いです。例えばこちら、ザ・フーの1stアルバム『マイ・ジェネレーション』は、初出がモノラル盤。後にステレオ盤でも発売されました。UK盤はこもりつつも迫力のある音、US盤はラウドな印象、日本盤はその中間といった具合で、発売国によっても音が違うと言われています。
Q.竹野さんイチオシのレコードジャケットをご紹介いただけますか?
はじめにご紹介したいのは、ザ・ローリング・ストーンズの『女たち』です。顔の部分が切り抜かれたカバーに、マリリン・モンローやブリジット・バルドーといった有名人の顔が印刷されたスリーブが入っているのですが、これらの写真は無断使用(笑)。後にクレームが入り、セカンドプレスからは顔が消されてしまったという、いわくつきのジャケットです。
続いては、ジェスロ・タルの『スタンド・アップ』。気になる仕掛けはタイトル通りです。2つ折りのジャケットを開くと、まるで飛び出す絵本のようにメンバーのイラストが立ち上がるデザインになっています。飛び出すジャケットの中でも、代表的存在です。
その他にも、盤がアフリカ大陸の形になったトトの『アフリカ』や、紙製のパンティーで包まれたアリス・クーパーの『スクールズ・アウト』などなど、ユーモラスなギミックが施されたものがたくさんありますよ。
Q.これからレコードを聴き始めるなら、どんなプレイヤーが良いでしょうか?
入門機には、ION Audioの「Vinyl Motion」をオススメします。実売価格7,980円(税込)という低価格ながら、ステレオ・スピーカーやフル充電で約4時間動作するバッテリー、USB端子を備えたオールインワン・プレイヤーです。スーツケースを模したデザインで持ち運びも簡単。行楽やアウトドアレジャーのお供にも最適です。
「聴くだけでなく音で遊びたい!」という方には、うってつけの商品があります。それがこちら、Numarkの「PT01 Scratch」です。上から見るとLPレコードのジャケットとほぼ同サイズですが、スクラッチ機能や±10%のピッチコントロール機能を搭載したターンテーブルです。それに加えて、33 / 45 / 78回転にも対応しています。レコードバッグにすっぽり入り、外出先で簡易DJプレイを披露できるところも魅力的です。電源は、ACアダプター(付属)と乾電池の両方に対応しています。
最後は、入門機からのステップアップにピッタリなPIONEERの「PLX500」をご紹介しましょう。こちらは、同メーカーが培ったプロDJ機材の技術を生かして開発した、ダイレクトドライブ方式(※モーターの回転力をギアボックスなどを介さずに直接、駆動対象に伝達する方式)のターンテーブル。テンポ調整に対応しており、スクラッチも楽しめます。パワードスピーカーに接続して使えるところも便利ですね。ヘッドシェルに他社カートリッジを取り付けできるので、カスタマイズを楽しみたいこだわり派の方にも満足していただけるでしょう。
Q. 「HMV record shop コピス吉祥寺」の客層や、よく売れるレコードの傾向についても教えてください。
一番多いのは、30~50代のお客様ですね。以前からレコード文化に親しまれている方々だと思います。一方、10代後半から20代前半の方々には、邦楽アーティストの新品レコードをお求めいただくことが多いですね。最近では『ラ・ラ・ランド』を筆頭に、映画サウンドトラックも幅広い年代に需要があります。
Q. 「HMV record shop」ならではのキャンペーンはありますか?
定例キャンペーンとして、廃盤レコード商品を出品する「週末廃盤セール」を行っています。60~90年代の洋楽から近年のJ-POPまで、取り扱うジャンルやテーマは毎回さまざまです。レアな盤をゲットしたい方は、ぜひチェックしてくださいね。
Q.最後に、初めてレコードを購入される方へアドバイスをお願いします。
「レコードが欲しいなぁ」と思ったら、まずは好きなアーティストや、手ごろな金額の盤から手に取ってみてください。安価なプレイヤーも増えているので、レコード1枚とセットで購入しても、1万円程度の初期投資からスタートできます。とりあえず試聴してみたいという方は、ぜひ「HMV record shop」にいらしてください。ディープで楽しい世界が待っていますよ(笑)。
PHOTOGRAPHER
YOSHIFUMI SHIMIZU