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東京一人暮らし。ふと急に寂しくなり、「話し相手が欲しいなぁ……」と考えたことがある人は多いはず。そんなとき、“心のスキマ”を埋めてくれるかもしれないのが、2012年にスタートした「おっさんレンタル」というウェブサービスだ。
サービス内容はその名が示す通りで、利用方法もいたってシンプルだ。まずはサイト上に掲載されているおっさんの中から、レンタルしたい一人を選んでカートに入れる。続いてレンタルしたい数量(時間)を設定し、購入ボタンをクリックorタップすれば、1時間=1,000円でおっさんをレンタル可能だ。日時や待ち合わせ場所なども、メールで相談できる。

ラインナップされているおっさんの数は、本校執筆時点で約70名。彼らのサムネイルには、「新商品」「HOT」「人気」といったタグが付けられている。おっさんたちはまさに“商品” 扱いだ。職種や年齢(33歳以上62歳未満)もさまざまで、雑談/恋愛相談/食事の同伴etc. 交渉次第でいろいろな要望に応えてくれるという。決して高額とは言えない賃金で、限られた時間を他者に提供しているおっさんたち。いったい彼らはどこにモチベーションを持って活動しているのだろう。また、なにをきっかけに活動をスタートしたのだろうか。考え始めると疑問が尽きない。そこで今回は、約1年間の活動を経て、「おっさんレンタル」を卒業したばかりの菅野豪氏(38歳)にアポイントをとり、活動について話を聞いた。

Q.まずは、「おっさんレンタル」活動をスタートした理由を教えてください。

意外に思われるかもしれませんが、僕はあまり社交的なほうではなく、初対面の人と話すことに苦手意識がありました。でもあるとき、他人の価値観に触れる機会がないと、自分の思考を過信する人間になってしまう気がしたんです。そこで友人や知人に限らず、いろいろな人の話を聞きたい気持ちが芽生えたことが、活動を始めたきっかけでした。

Q.どのように“おっさんデビュー”を果したのでしょうか?

「おっさんレンタル」の存在を知ったのが、昨年の9月ごろ。サイトでサービスへの登録者を募集していたので、すぐ代表の西本貴信さんに連絡したんです。後に2時間程度の面談をして、晴れて“おっさんデビュー”となりました(笑)。当時は今ほどサービスが話題になっておらず、おっさんの数も少なかったです。ここまで盛り上がったのは、ちょっと驚きですね。

Q.レンタルのペースや依頼の内容、客層について教えてください。

僕の場合は週1件ほどのペース。年間で約50件の依頼を受けました。依頼者の年齢層は20代~70代までと幅広く、9割近くが女性でしたね。依頼は恋愛や仕事の “悩み相談”が多かったです。友人や家族にも悩みを打ち明けられず、孤独感や悩みを一人で抱える人が予想以上に多いのだと感じました。

Q.活動を通じて利益はありましたか?

おっさんとして活動するには、「登録料1万円+月額1万円」のコストがかかるため、利益にはなっていませんね。僕の場合は、レンタルの利益で年間13万円の費用をちょうどペイできる感じ。でも、東中野で経営している「みそや林檎堂BASIC」というラーメン屋が本業なので、レンタル活動で利益を得ることは考えていませんでした。本業との兼ね合いで、1年限りの活動と決めていたところもありますね。

Q.菅野さんはどんなスタンスで相談を受けていましたか?

意識していたのは、常にフラットな状態で話を聞くことです。明確なアドバイスを出そうと気負いすぎると、お互い疲れてしまいますもん(笑)。相談を受けながらいつも感じたのは、みんなどこかに“許し”を求めているのかな?ということです。世間との倫理的価値観のズレを自覚し、“謎の罪悪感”を抱えて苦しんでいる人が多かった印象があります。そんな意識を解きほぐすお手伝いができれば……と、いつも考えていました。

Q.最後に、Z世代に向けてメッセージをお願いします。

僕から言えるのは、“普通”や“一般的”という概念にとらわれすぎないことですね。世間の価値観と自分がやりたいことを天秤にかけて人に迎合するより、自分の意思を貫いてほしいと思います。その中で苦労はあるかもしれませんが、トライ&エラーを繰り返したほうが、人生楽しくなりますよ!

残念ながら、菅野氏は活動を引退してしまったが、「おっさんレンタル」には魅力的なおっさんがまだまだ在籍しているはず。東京暮らしで心にすきま風が吹いたとき、人生経験豊富なおっさんたちに助けを求めるのも悪くないかもしれない。

おっさんレンタル