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焼き物。もしくは陶磁器。アーティスト・林茂樹が生み出す作品を、そうした一般名称で呼ぶのは難しい。「最近注目の陶芸作品なんだけど」といって林の作品を紹介されたら、たいていの人は面食らうだろう。

林茂樹が一貫して扱っている素材は”磁器”だ。自ら石膏型を制作し、鋳込みによって複数のパーツを製造。それらを組み合わせて彼独自の作品世界を作り出す。このSF的な作品群が、「土をこね、形作り、焼く」という、伝統的な技法で生み出されていることに興奮を覚える。

今年の3月23日-4月11日まで、高島屋日本橋店で開催されていた「林茂樹展 UNFOLDED CERAMICS」で、彼の作品を間近に鑑賞する機会を得た。展示されていたのは、新作「deva device“GR-D”」。微笑を携えているようにも、意を決しているかのようにも見える表情の少年が、羽のついたウェアとベルトを身に着けている。

このウェア。光沢の美しさと造形の巧みさが相まって、磁器ではなく「未知の物質?」とすら思える。そして、細部まで目を凝らして鑑賞しているうちに……、触りたい欲求が高まっていった(笑)。当然、接触は厳禁だ。触れることはなかったが、自分でも不思議なほどにこみあげてくる欲求だった。

巧みな技とユニークで綿密なSF設定から生まれる唯一無二の世界

ルーツはシンプル。彼の生まれた岐阜県土岐市は、陶磁器生産日本一の街だ。小さいころから焼き物を見て育ったが、当時は陶磁器に対し特に魅力を感じてはいなかったようだ。しかし、大学時代、陶芸作家・深見陶治の作品と出会い強い衝撃を受ける。彼は、導かれるまま、この道へ進むことを決めた。

大学卒業後に2年間、陶磁器の高度教育で知られる多治見工業高校の専攻科で学ぶ。その後はアルバイトや母校での講師を務めながら作品作りを進め、注目を浴びたのは30歳を過ぎた頃。初めてSFモチーフを取り入れた作品「KAGUYA-SYSTEM」が、神戸の現代アートギャラリーの目に留まる。その後「Q.P」「Koz-o」「OO」とSFシリーズの発表は続き、徐々に国内だけでなく世界から注目を集めていった。

ウェブサイトから引用すれば、「KAGUYA-SYSTEM」は「月から地球へ幼児を運ぶための装置で、幼児用大気圏突入ポッド」なのだそうだ。こうした、彼独特のユニークなSF設定にも舌を巻く。個展「UNFOLDED CERAMICS」に展示されていた作品も同様である。

「胸のインテークから空気を吸い込み、中のコンバーターで水分と酸素を特殊プラズマ化し……」

「(と、まあ、あくまで空想上の話ですが)」と、軽妙にまとめられてはいたが、個展では長い解説が加えられていた。その空想力と、それを具体化する力に驚かされる。「林茂樹展 UNFOLDED CERAMICS」は、7月13日-7月25日に高島屋新宿店で、8月3日-16日に高島屋大阪店で、再び開催予定。ぜひ会場へ足を運んでもらいたい。

林茂樹(はやし しげき)

1972年岐阜県生まれ。陶造形作家。大学卒業後、改めて多治見工業高校陶磁科学芸術専攻科へ入学。
第8回国際陶磁器展美濃銅賞・美濃賞、「誰でもピカソ」アートバトル優勝、第57回ファエンツァ国際陶芸展大賞(伊)ほか、国内外で受賞歴多数。V&A美術館(英)に作品収蔵。

REPORTER

r.c.o.inc.代表。好きな食べ物はナン。好きな女性は飯島愛。好きな言語はJavascript。座右の銘は「もうしょうがない人ねぇ」。

PHOTOGRAPHER
Junichi Takahashi, Katsura Endo